★★生徒会誌に見る学校の履歴★★
生徒会誌第7号より,高Ⅰ近藤史人氏の作品を紹介します。近藤氏は2003年度,大宅壮一ノンフィクション賞を受賞されました (『藤田嗣治「異邦人」の生涯』)。15歳の氏に文才の片鱗はすでに芽吹いているのでしょうか。「海幸山幸」 (一部を抜粋)
雨あがりの山は美しい。水気を十分に含んだ椿の葉が朝の光にきらきらと輝いている。海幸彦は何か勝手が違うのにとまどったが,すぐに自分にもかなりな量の獲物がとれそうな気がしてきた。人間のうぬぼれの強さである。よし取ってやるぞ!
梢をがさごそ鳴らす音が聞こえたのはそのときであった。山に馴れない海幸彦の耳に,それは非常に不気味に聞こえた。弟から聞いていたあの恐ろしい猪ではないか,いや熊,狼......。悪いことばかり頭に浮かんだ。音はだんだんと近づいてくる。ガサ,ガサ。海幸彦はもう恥も外聞もあったものではない。弓も矢も放り出して近くの木にかけ登った。足がひとりでにふるえた。ザワッ,ザワッという音に変わって,あの不気味な音はもうすぐそこまできていた。
海幸彦は死ぬかもしれないと思った。自分を山へ来させた弟に対する怒りがこみ上げてきた。絶望・怒り・憎悪......。その時,ザワッと海幸彦の目の前の枝が揺れたわんだ。そこからあらわれたのは一匹の臆病そうな小兎であった。海幸彦は,それを凝視した。それは熊でも猪でもなかった。それは小さな兎以外の何物でもなかった。小兎はしばらくきょとんとしていたが,やがて木の上にぽかんとしている大男を見出した。そして,如何にも不思議そうにぴょんぴょんと向こうへ立ち去った。海幸彦は屈辱を感じていた。海幸彦が登っている枝が折れたのはその時だった。.........
海は広かった。真青な大空と紺碧の大海原。その接線のあたりから覗いているのは純白の絹の塊のような入道雲である。
「素晴らしい。やはり海に来てよかった。よし今日は兄上の三倍も四倍もの魚を釣ってやるぞ。」
これも好きなことばかり考えている。だが,山幸彦も餌をとられるばかりで一向に魚は釣れない。昼近くになるともう飽きてしまった。しかしここで帰ると立場がなくなる。夕方近くまでに一匹でも釣ろうと躍起になった。日はまさに西に傾きかかっていた。山幸彦が釣竿に手応えを感じたのはその時であった。しめたと思った。ぐいぐいと手応え。山幸彦は力まかせに引っ張った。プツッ,と糸が切れる音。しまったと思ったがもう遅い。引き上げられた竿にもう針はなかった。.........
日はすでに西に沈み雲のみが紅に染まっている。山幸彦は海辺の岩に座って途方に暮れていた。沖を走る一隻の赤船が何時になく物悲しい。
★★数学同好会★★
今年度最初の数学同好会が4月25日に行われ,図書館2階のいつもの部屋があふれんばかりの大盛況となりました。高ⅠE組の生徒が新しく8名加わり,参加者総計16名。今年度は組合せの問題を中心に,話を進めていくことになっています。
先日扱った問題を紹介します。
- 10000円札を100円,50円,10円硬貨で両替すると,何通りの両替が可能か。
- 10000円札を500円,100円,50円,10円硬貨で両替すると,何通りの両替が可能か。
- 一般な位置にある$n$本の直線は平面を何個の部分に分割するか。
- 一般な位置にある$n$枚の平面は空間を何個の部分に分割するか。
★★本の紹介★★
「哲学塾」 (岩波双書全15巻)愛光でひそかに哲学の本が流行っている? 断定する根拠はないが,図書館で哲学関係の本を借りていく人は少なくない。興味がある人には,いま出版されつつある岩波双書 「哲学塾」 がお薦めです。全15巻。
そのうちの1冊, 「パラドックスの扉」。
知ることは,知らないことからの脱却だが,同時にそれによって,これまで見えていた何かが見えない世界に突き落とされる。さらに同時に,知ることに向けて開かれた新たな知らない世界が出現する。しかも,こうした知と不知はそれほど明瞭に分かたれているわけでもない。個人が,学者グループが,人類が,あるいは他の何かが,恣意的に,仮に線を引いているにすぎない。
こうした 「知の境界」 のダイナミズムがこの本のおもしろさです。

