愛光学園

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チュータ日誌

チュータのひとりごと 第320回(卒業式 式辞(1))

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はじめの挨拶 ――

 53期生は,本学園が男女共学化4年目の中1生として入学した,男女共学第4期生であります。あれから6年間,あるいは途中高校で入学した皆さんは3年間,学園の期待を担い,安藤学年主任を中心とする高3学年部の指導のもと,立派に育ってくれました。皆さんが積み重ねてきた努力に対して,心より「卒業おめでとう。良く頑張りました。」と申し上げます。

この言葉と気持ち以上に付け加えるべきことはないのですが,皆さんの新しい人生の門出を祝う記念の日でありますので,日頃感じることを述べ,皆さんを送る激励の言葉にしたいと思います。

在学中に何度も愛光学園の二つの使命について触れましたが,高校生活最後の式となるこの機会に,もう一度触れておきましょう。

愛光学園の第1の使命は

高い知的レベルの教育を授けて社会の要望に応えること

第2の使命は

高い道義的理念を掲げて日本と世界に光を与えること

です。この使命を達成するために,「世界的教養人」としての深い知性と高い徳性を備えた聖ドミニコの理想とする「愛と光の使徒」を育成すること,これが本校不易の建学の精神であります。

知性の面では6年間,あるいは3年間,皆さんの一人ひとりが自ら学ぶ姿勢を堅持しつつ,各教科の先生方にしっかりと鍛えてもらったことと思います。

また,徳性の面でも,神父様や学級担任,そして教科担当の先生方の教えを受け, さらには,ご父母をはじめとするご家族のよき導きによって磨かれてきたことと思います。

わたくしも,皆さんの中学1年次に,週に1時限ではありましたが,英語2を担当し,キーボードを用いてリズムで学ぶ英語を中心に学問の基礎の手ほどきをし,皆さんの知性の一端を磨かせていただいたことが,つい昨日のように思い出されます。

徳性を磨くという点でも,始業式や終業式,さらには入学式,卒業式等で様々な話を伝えてまいりました。高校生活最後のこの機会に,世の中に出ると人から教わる機会がめったにない,「人を助ける,人様の役に立つ」ということについて話をしてみたいと思います。

後世の人々から敬愛される賢人や偉人が最終的にたどり着く悟りは,聖カタリナの「Charity for Your Neighbors」,そしてアインシュタインの「We exist for our fellow-men.」という言葉に代表されるように,「人間が他人との関係において存在している。」,つまり武者小路実篤氏も「人類に対する吾人は人体に於ける細胞のようなものではないだろうか。」と述べておりますが,人は類として存在しているという悟りであるとわたしは考えています。

具体的な例を挙げると,たとえば,電車の中で席を譲るという行為は,小さな利他的行為であります。席を譲られた人が喜ぶ姿を見て,譲った人も共に喜んでいる。周りにいる人たちも,その光景を見てさわやかな気持ちになる。

席を譲られた人は,おそらく,次にまったく違う形で人の役に立とうという考えに至るでしょうし,席を譲った人は利他的な行為を積み重ねているうちに,次第に自分の心が入れ替わってくることに気づくことでしょう。周りにいた人たちも,その光景を見てさわやかな気持ちになることで,次には自分もちょっとした勇気と努力によって利他的行為をしてみようという気持ちになるのです。

このようにして,席を譲るといった小さな親切が引き起こす波紋は,たとえ小さくとも,間違いなく世の中に拡がっていくのです。

今年の1月9日の朝日新聞の1面に紹介された「大雪ぬくもり国道」の記事に,鳥取県琴浦町(ことうらちょう)の住人が,雪で立ち往生している車列を見て,自宅のトイレを使ってもらおうと案内板を立てかけ,さらには,自宅にあった1俵半の米を全部たいておにぎりをつくり,配ってまわったと書かれていましたが,このような行為が人の心を揺さぶり,世の中にさらなる利他的行為を呼び込むのだと思います。

それでは人間はなぜ利他的行為をするのかということですが,昨年10月の朝日新聞に,「チンパンジーは見返りがなくても,相手が要求すれば手助けすることを,京都大ティームが実験で明らかにした。」という記事が載っていました。その記事によると,「人のように自発的に相手を助けることはまれだった。人の自発的に手助けをする行動は,チンパンジーの相手の要求に応えるこうした行動から進化したのではないかとティームはみている。」と解説されていました。

わたしの見解は少し異なっていて,人間は誕生以来,脈々たるDNAの流れの中で,もともと人を助けることに生きがいを感じ,しかも,人を助けることによって自らが助かっていくように創造されているのだと考えています。

「人を助けることによって自らが助かる。」という言葉がありますが,これはよく考えてみると,自分が助かりたいと思えば,人を助けさせてもらう以外に道がないのだということをわれわれに教えてくれているのではないかと思うのです。

もちろん,席を譲るなどの小さな親切を始めとする利他的行為を行うときに見返りを期待している人はまずいないでしょう。人間はもともと,人を助けることに生きがいを感じるように創造されているからです。しかし,見返りを期待することのないGive & Give の誠の心を持つすべての人が,実はその利他的行為によって,自らが助かっているのだということも認識する必要があります。利他的行為の積み重ねは,人の心を入れ替え,徳分のある人,つまり「われらの信条」で言う,高い徳性を磨く学徒となることにつながるのです。結果として,誠真実の心でもって利他的行為を行う人が助かっていくように,人間の世界は仕組まれているのであります。つまり,人生では人を助ければ自らが助かるようになっている。またそうすれば,自らが助かるだけではなく,周りの人に利他的行為を促していくことにもつながっていくのではないでしょうか。このことを理解できれば,人間の世の中が助け合いの世の中になっていることに,改めて気付くはずです。

皆さんが今後,社会に出て,順風満帆に人生を歩んでいると思えるときには,それほど気にする必要はないのかも知れませんが,人生には必ず苦労,艱難に遭遇することがあります。そのときに,「人を助けることによって自らが助かる。」という言葉をヒントにして,苦労,艱難に立ち向かってほしいと願っています。

初代校長田中忠夫先生は,「われらの信条」の中で,「高貴なる普遍的教養を体得して,世界に愛と光を増し加えんこと,これがわれらの願いである。」と述べています。この,世界に愛と光を増し加えるという行為こそ,利他の精神そのものではないかと思うのです。そして愛と光を増し加えるという行為が,日本と世界の人々を救うだけでなく,自らを救うことにつながるのだということをしっかりと認識して,世の中で活躍していただけることを期待してやみません。

 


2013年1月

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