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チュータ日誌

チュータのひとりごと 第356回(卒業式式辞 2)

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さて,今日の記念の日に,もう一つ,地球を含む宇宙が一つの生命体ではないかという話をしてみましょう。

46億年前に誕生した地球と,この地球を内包する,137億年前に誕生した宇宙が生命体であるというと,皆さんは笑うかもしれませんが,イギリスの科学者,ジム・ラブロック氏がNASAで働いていた当時,地球と生物が相互に関係し合い,環境を作り上げていることを理由に,地球が巨大な生命体であるという仮説,いわゆるガイア理論を提唱しています。つまり,それは,地球の生物,大気,海洋,そして地表は単一の有機体で,相互に影響し合い,複雑なシステムをなし,われわれの惑星を生命にふさわしい場所として保つ能力を備えているのではないかという考えです。

わたしは,地球が,いや宇宙全体が,筑波大学名誉教授の村上和雄氏や『人類を救う哲学』の著者である稲盛和夫氏,同じく哲学者の梅原猛氏が唱える「サムシング・グレイト」(何か偉大なるもの),そのものではないかと想像するのです。

地球や宇宙がSomething Greatそのものであるとすると,われわれはSomething Great の体内で活動していることになります。

このように考えてくると,われわれはこの地球上でどのような生活を送らねばならないかが見えてくるのではないかと思うのです。

特に,地球環境に対して人為的な介入を行うことについては,現代の科学技術による人間中心の近視眼的な措置を計画するのではなく,もっと,地球という体にやさしい判断をすべきだ,という考えに至るのではないでしょうか。

地球の資源を活用する場合に,Something Great の体の一部を使わせてもらっていると考えると,慎みの気持ちが湧いてくるでしょう。地球温暖化についても,Something Greatの体内であると考えると,地球が体調を整える余裕のある,ゆるやかな変化にしていかねばならないことに気づくことでしょう。自然や他の生物との関係においても,共存を図らないと,地球の体調が崩れてくることにつながります。以前に,傲慢な文明は歴史上,必ず滅びているという話をしましたが,われわれの文明を保持したいのであれば,慎みの気持ちが必要不可欠なことなのです。

新約聖書の「テモテへの第二の手紙」の第1章7節で,パウロがテモテに向かって「神がわたしたちに下さったのは,力と愛と慎みの霊である。」と述べているように,神は力や愛において支えてくれてはいるものの,傲慢な態度になることなく,慎みの精神を持って自分以外の他人のために生きることをわたしたちに教えています。自分の幸せばかりを求めるのではなく,他人の幸福を考える気持ちを持たなければ,いずれ世界は行き詰まり,人類に未来はないと言っても過言ではないとわたしは,考えています。

最近,エコロジーという言葉をよく耳にします。エコロジーという言葉は,狭義には生物学の一分野としての生態学のことを指しますが,一般には,自然環境を保護し,人間の生活との共存を目指すという意味で用いられています。

今後は,人間の利益中心のエコロジーではなく,ノルウエーの哲学者,アルネ・ネス氏が提唱する地球中心のデイープエコロジーの考え方が必要になってくるのではないかとわたしは考えています。

ネス氏は,「すべての生命存在は,人間と同等の価値を持つため,人間が生命の固有価値を侵害することは許されない。また,環境保護それ自体が目的であり,人間の利益は結果にすぎない。」と述べています。

これから皆さんが,どのような形で社会にかかわっていくかは,それぞれの夢やビジョンによって異なりますが,どの世界にチャレンジしても,地球という生命体の中で暮らしていることを念頭において,謙虚な気持ちになり,私利私欲のない無私の精神で新たなるチャレンジに向かうという姿勢を忘れないでください。

宇宙や地球の歴史から見ると,われわれ個々の人間は,地球上にほんの一瞬だけ,肉体を借りて生かされているにすぎないのです。一方,肉体とは違って,心は個々の自由に遣うことができますから,生きていると表現できるでしょう。わたしは,この意味で,人間は生かされ,生きているのではないかと考えるのです。他の生物も多少の差はあっても,歴史の長さから見れば,ほんの一瞬,この地球上に存在しているに過ぎません。ただ,自由に遣える心を持つ人間が,心をどのように遣っていくのか,これこそが,徳性の問題であり,永遠に地球上に存続するのであります。「人間の尊厳」という言葉がありますが,この言葉を用いることができるのは,自由に遣える心を,他の生物との共存を図ることに遣う時にのみ言えるのだとわたしは思っています。稲盛氏の言う「人格」,コヴィー氏の言う「誠実,謙虚,勇気,勤勉」は,個々の心の遣い方によって決まるものであり,これこそが地球の未来を決定すると申し上げて,卒業生の皆様への餞の言葉といたします。

最後に,高い所から誠に失礼とは存じますが,ご父母の皆様方に一言ご挨拶を申し上げます。

一部省略

それでは54期生の皆さん,お別れです。愛光学園の卒業生として,聖ドミニコの理想,深い知性に裏づけされた信念と,清い人生観より生まれる高潔な徳性を兼ね備えた「愛と光の使徒」として世界に羽ばたいてくれることを期待し,それぞれの道での健闘と幸福を心よりお祈りいたします。

今年度の「チュータのひとりごと」は今回で終了です。新年度は4月15日()に掲載予定です。


2013年1月

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