チュータ日誌

(2013/04/28)チュータのひとりごと 第390回(幻の焼きそば)

  人にはそれぞれ,なつかしい味があるように思われる。

  世の中に食べ物が不足する環境の中で少年時代を過ごしたわたしにも,思い出の味がある。

  今でも,漬物とご飯があれば十分だと言えるのは,その頃の食糧事情の影響であろう。

  つまり,わたしには漬物が思い出の味ということになる。牛乳やバナナに手が届かなかった時代を過ごした人には,同様の思い出の味があるに違いない。

 学生時代は下宿生活を送っていた。国の特別奨学金をいただき,かつ,中学生や高校生を教えるアルバイトをやっていたこともあって,他の学生と比べると生活に少し余裕があった。その当時は,インスタント食品に人気があり,常にラーメンや焼きそばがスーパーに並んでいた。

 わたしは,少しお金に余裕があったので,他の下宿生に頼まれると,インスタントラーメンや焼きそばをケースで購入し,下宿の廊下においておく役目を引き受けていた。

 わたしの記憶が正しければ,1個のインスタントラーメン,あるいは焼きそばの価格が18円であったように思う。下宿生は1個20円をケースの中に入れて夜中によく食べていた。1ケースに30個入っていたので,全部売れると60円の利益が出るようになっていた。要するに自分が食べるラーメンや焼きそばがただになるということである。

 お金を持っている者が,ますます裕福になるという原理(?)をこの時,学んだような気がする。

 あるとき,S食品の「アラビヤン焼そば」を1ケース購入して廊下に置いた。

 インスタント食品は健康によくないという話を聞いていたが,わたしはそれほど好んでラーメンや焼きそばを食べていたわけではない。しかし,この「アラビヤン焼そば」を口にした時は,その味の素晴らしさに,思わず「うまい」と言う声を上げたものである。「アラビヤン焼そば」との出会いは,それほど衝撃的だったと言える。以来,焼きそばは「アラビヤン」と決めていた。

 22歳で東京都町田市にある玉川学園中学部に,英語科教員兼寮舎監として赴任した。24時間労働ではあったが,ありがたいことに食事の心配はなかった。生徒と共に食事をするので,インスタント食品とはお別れになった。

 その後も,学校には弁当を持参していたため,やはり,インスタントラーメンや焼きそばを食べる機会がなかった。

 ところが,最近になって,インスタント食品を食べてみたいという気持ちが湧いてきた。わたしはS食品の「サッポロ一番味噌ラーメン」のファンである。松山のどのラーメン店に行っても,このラーメンよりもうまいと思って食べたことがないのは,自分の味覚がおかしいのかもしれない。

 そうこうするうちに,あの「アラビヤン焼そば」を思い出したのである。もしかしたら,スーパーにあるのではないかと思い,探してみたが,どうも松山では流通していないようで,あきらめていた。あるとき,インターネットで検索してみると,現在も「アラビヤン焼そば」として発売されていることが分かった。わたしは買い物に出かけることはめったにないので,松山で流通していないとは断言できない。

 実は,先日,知人からこの幻の「アラビヤン焼そば」が届いた。わたしは,これまで,家族を含むいろいろな人から頂き物をしてきたが,これほど衝撃的なプレゼントはなかったように思う。44年間お目にかからなかった幻の「アラビヤン焼そば」と出会えたのである。

 袋に描かれている人物が若くなっていることを除いて,記憶にある「アラビヤン焼そば」と同じであった。

 しばらく食べるのがもったいなくて,保存していたが,自分で調理(?)をして,44年ぶりの味を楽しんだ。

 味も44年前のあの思い出の味であったことは言うまでもない。

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