今年度の地区別懇談会が始まった。トップを切ったのは,松山市内の中3と高Ⅰの懇談会である。6月1日(土)に市内の二か所のホテルで行われた。
わたしの担当は中3の懇談会で,ワシントンホテルが会場であった。以前にも触れたことがあるのだが,この会場は横に長いため,非常に話しづらい。保護者の反応を確かめるのに,絶えず左右に首を振る必要があるからだ。
話が終わってから,責任者らしきスタッフに会場を縦長に設営できるかどうかを尋ねた。担当のスタッフは先生方の机を斜めにする必要があることを除いては,縦長にするのに大きな問題はないと答えた。
来年度からぜひそうしてほしいと希望を述べたところ,本校の地区懇担当教諭にも伝えてほしいという要望があった。
わたしの40分の話は主に「建学の精神」についてである。どこの私学にも「建学の精神」がある。校長の重要な役目の一つに,生徒,教職員,そして保護者に「建学の精神」をしっかりと伝えることがある。この役目を果たしていない校長は失格であると,どこかの席で言われた。確かにどのような生徒を育てようとしているのかを伝えきれないような学校では心もとない。
もちろん生徒の中には,「進学実績」に一番の魅力を感じて本校を選んだ者もいると思う。たしかに,「進学実績」も大切であるが,その学校がどのような生徒を育てようとしているのかということは,「進学実績」に勝るとも劣らない重要なポイントでなければならない。
ここで,初代理事長ヴィセンテ・ゴンザレス神父様の言葉を紹介したい。
―― 学校設立の根本的精神について,カトリックの精神に則り,ドミニコ会の精神に従って,道徳的な点に力を入れて,新時代の日本にふさわしい全人教育を青年たちに与えるということ。このことを学校の基本方針にしたい。――
神父様の言葉の中に「全人教育」という言葉を見つけてわたしは驚いた。
「全人教育」という言葉は,1921年,大正10年8月8日の八大教育主張講演会の席で鹿児島県出身の小原國芳氏によって,初めて提唱された教育論である。本校の創立が1953年(昭和28年)であるので,全人教育という言葉が提唱されてから30年ほど経過しているが,神父様が「全人教育」に触れたのは,教育のことを真剣に考えていらした結果だという思いに至った。
全人とは,人間文化の六つの方面,つまり,学問,道徳,芸術,宗教,身体,生活の分野のそれぞれにおいて,円満かつ完全に人格を発達させた人間のことを言う。それぞれの理想を並べると,真・善・美・聖・健・富となる。真・善・美・聖は絶対価値で健・富は手段価値と呼ばれている。
そして,次に「世界的教養人」と「愛と光の使徒」の説明に入るのだが,このことについてはこれまで何度も触れてきたので,今回はここで筆をおきたい。