それでは,ここで,みなさんがこの先抱く夢について述べてみましょう。
「成功者3000人の言葉」の著者である上坂徹氏はある対談を取り上げて次のように記しています。
――ひとりは今や世界的に知られる日本企業の経営者。もうひとりは,彼を若いころから知る恩師の元大学教授。
元大学教授の教えの中で,最も鮮烈に覚えている話を経営者は語り始めました。
「君は『夢』と『志』の違いを知っているか。『夢』というのは,漠然とした個人の願望。ピアノを買いたい,車を買いたい,家を買いたいというのは,みんな夢だ。
でも,そんな個人の願望をはるかに超えて,多くの人々の願望,夢を叶えてやろうじゃないかという気持ちを『志』と言う。だから,志と夢では,まったく次元が違う。夢を追う程度の男になってはいかん。志を高く持て。」
当時20代で駆け出しの経営者だった彼にとって,この話は衝撃的だったと言います。以来,ベンチャー企業を大成功させ,今なお人々が驚く積極果敢なチャレンジを続けています。――
上坂氏が記しているように,皆さんには,自分のためだけの「夢」ではなく,他人のため,社会のため,国のため,世界のために役立ちたいという「志」を持ってほしいと思います。
また,この会場に集う,入学生,教職員,そして保護者の皆さんが全員,「志」を持った人になることを心から願っています。
それでは,本校の教育について触れましょう。本校では,特に深い知性と高い徳性を磨くことに力を注いでいます。
深い知性は厳しい学問探究によって,高い徳性はCLE(Christian Life Education・キリスト教生命教育)を始めとする宗教教育,道徳教育によって鍛えていきます。
ただ,徳性は,学校で学ぶだけでは十分とは言えません。家庭や社会で学ぶ人間としての世俗的倫理観も重要な事柄なのです。この点におきましては,ご家族の皆様のご協力をお願いいたします。
それでは次に,本校の使命について触れてみたいと思います。
高い知的レベルの教育を授けて社会の要望に応えること
高い道義的理念を掲げて,日本と世界に光を与えること
この二つが本校の使命です。
わたしたちはこれらの使命感を持って,皆さんを鍛えてまいります。
皆さんは,将来,全員がグローバル・リーダーを目指す人たちです。グローバル・リーダーは,「世界的教養人」そして「愛と光の使徒」でなければなりません。
米国のビジネス思想家と呼ばれているジム・コリンズ氏は,著書「ビジョナリー・カンパニー」の中で,リーダーシップを5段階に分け,第5水準のリーダーシップが重要だと述べています。ジム・コリンズ氏は第1水準を有能な個人,第2水準を組織に寄与する個人,第3水準を有能な管理者,第4水準を有能な経営者,第5水準を謙虚で意志が強く,控えめだが大胆な人物だと述べています。つまり,第5水準のリーダーの二面性として,職業人としての意思の強さと個人としての謙虚さを上げています。すなわち,第5水準の指導者は,成功を収めたときは窓の外を見て,他の人たち,外部要因,幸運が成功をもたらした要因だと考える。逆に,結果が悪かったときは鏡を見て,言い換えると自分を省みて,外部要因や運の悪さのため失敗したのではなく,自分に責任があると考えることのできる人物だと指摘しています。
皆さんも,強い意志力と,人間として最も重要な誠実さと謙虚さを備えた人物に成長することを願っています。
皆さんがこれから目指す人間像は,以上の話で何となくイメージできたのではないかと思います。世界のどこの大学に入学しても通用する深い知性と,世界のどの分野に出ていっても恥ずかしくない高い徳性を養うために,皆さんは,この愛光学園に入学したのであります。
東京大学,国公立大学の医学部をはじめとする難関大学に合格するということは,このような人物を目指した結果,手に入る栄冠であってほしいのです。
ここにいる62期生と59期生,一人ひとりが持つ夢や目標は異なりますが,それぞれの世界でリーダーシップを発揮するために,全国から集まった友人を宝とし,共に努力を重ねてくださることを強く願っています。
62期の皆さんと59期の皆さんの今後の健闘を心から祈っています。
(ご父母の皆様への挨拶省略)
平成26年4月8日 愛光中学・高等学校 校長 中村 道郎