公益社団法人私学経営研究会が発行している「私学経営」という冊子がある。
夏ごろ,この冊子の「特色ある私学をめざして」というページへ寄稿依頼を受け,本校を紹介するのに良い機会だと思い,お引き受けした。
先日,完成した冊子がわたしの元へ送られてきた。本校のホームページでも原稿を公開してよいか私学教育研究会へ確認したところ,快諾していただいた。
「私学経営 No.501 (2016年11月)」に掲載された,わたしの原稿の全文を,4回に分けて紹介したい。
1 設立
愛光中学・高等学校の設立は1953年(昭和28年)で,経営母体は,今から800年前の1216年にローマ教皇ホノリウス3世によって認可を受けたカトリック聖ドミニコ修道会です。カトリック聖ドミニコ修道会の創始者はドミンゴ・デ・グスマン(Domingo de Guzmán)で,1170年スペインのカレルエガ市で生誕,1221年イタリアのボローニャ市で帰天されました。
聖ドミニコ修道会の主な理念は「神学研究」と「清貧の中での福音宣教」です。本校が世界的教養人を育てるために知性と徳性を大切にするのはこの理念によるものです。
2012年の4月には,正門横に聖ドミニコ像を設置し,除幕式を行いました。
今年は聖ドミニコ修道会の創立800周年を迎える年にあたります。
2 われらの信条と全人教育
初代理事長ヴィセンテ・ゴンザレス神父様は『愛光20年誌』の中で,
―― 学校設立の根本的精神について,カトリックの精神に則り,ドミニコ会の精神に従って,道徳的な点に力を入れて,新時代の日本にふさわしい全人教育を青年たちに与えるということ。このことを学校の基本方針にしたい。――
と述べています。
ここで言う「全人」とは,人間文化の六つの方面,つまり,学問,道徳,芸術,宗教,身体,生活の分野のそれぞれにおいて,円満かつ完全に人格を発達させた人間のことを言い,それぞれの理想を真・善・美・聖・健・富としています。この「全人」は玉川学園を創設した小原國芳先生が大正10年8月に講演会で提唱した「全人教育」から生まれた言葉です。
この創設の理念を受けて,初代校長田中忠夫先生が「われらの信条」を起草し,以来63年間受け継がれてきました。以下,それを紹介しましょう。
われらの信条
われらは,世界的教養人としての深い知性と,高い徳性を磨かんとする,学徒の集まりである。
学問に対する情熱と,道義に対する渇望とは,われらの生命である。
幾千年にわたる,人類苦心の業績 ―― この高貴なるものに寄せる愛情と尊敬,
これを学びとるための勤勉と誠実,これを伝え,これに寄与するための忍耐と勇気とは,
われら学徒の本分である。
かくて,高貴なる普遍的教養を体得して,世界に愛と光を増し加えんこと,
これがわれらの願いである。
輝く知性と曇りなき愛
愛(Amor)と光(Lumen)の使徒たらんこと!
これが,われらの信条である。
この信条の中にある「世界的教養人」と「愛と光の使徒」という抽象的な言葉について説明すると,「世界的教養人」とは,一流の難関大学にも入学しうるような深い知性と,世界のどこに出しても恥ずかしくないような高い徳性を備えた人間のことであります。
そして,「愛と光の使徒」における愛は徳性を,光は知性を表しています。したがって,愛光学園は徳性・知性学園と呼ぶこともできるのです。
また,「愛と光の(人)」ではなく,「愛と光の(使徒)」という言葉が使われています。
使徒は,自らが磨いた知性や徳性を自分だけで完結しない。つまり,他人のためにどう生かすかを考えることのできる人間,たとえば,アインシュタインの言う,“We exist for our fellow-men.”「人間は他人のために存在する。」,ヘレン・ケラーの“Life is an exciting business and most exciting when it is lived for others.”,「人生は胸おどるものです。そして,最もワクワクするのは,人のために生きるときです。」,また,聖カタリナの“Charity for Your Neighbors”「隣人愛」等の言葉にあるように,他人の存在への配慮ができる人間が使徒であろうと思います。
これらのことを考え合わせると,愛光学園の教育の根本精神は,全人格的陶冶を目指し,かつ一段と高い徳性と深い知性を備えた「世界的教養人」を育成することであり,引き継いでいかなければならない精神であると考えています。
3 愛光学園の使命
カトリック聖ドミニコ修道会のミッションスクールとしての愛光学園の使命は,
ア “高い知的レベルの教育を授けて,社会の要望に応えること”
イ “高い道義的理念を掲げて,日本と世界に光を与えること”
であります。この二つの使命を達成するために,「世界的教養人としての深い知性と高い徳性を兼ね備えた愛と光の使徒」を育成すること,これがわが校の不易の伝統という要の部分です。