5月11日(土)の父母の会総会で述べた校長挨拶の一部を紹介しましょう。
さて,校長からの話ということで, 先日,本校の入学式で述べた天野篤教授の話をします。入学式では感謝という点で引用しましたが,今日は少し異なった視点から述べてみたいと思います。
昨年の2月18日,天皇陛下の心臓バイパス手術の執刀医となった心臓外科医,天野(あまの)篤(あつし)順天堂大学医学部教授が,『一途(いちず)一心(いっしん),命をつなぐ』という著書の中で,イタリア人男性の難しい手術に臨み,手術のタイムリミットが迫る中,次のような思いを綴っています。
――自らを励ますように心の中に思い描いたのは,自分を支えてくれる人たち,これまで出会った大切な人たちだった。亡くなった父,家族,お世話になった人たち,患者さん...。その人たちの名前を1人ずつ思い浮かべ,心の中で念じた。「今,力をくれ!」
ほんの少しでいい,みんなの力を与えてほしい。この指先に送ってほしい。最後の一歩を手伝ってほしい。そうすれば,きっとうまくいく。この砂地獄から脱け出せる。そう思ったのだった。
手術をしているのはこの自分だが,僕自身は常にいろいろな人に支えられて心臓外科医をやっている。支えてくれる人たちの思いは僕の力になり,そしてその力が,最終的には手術で患者さんを救うことへと集約される。
そんな祈りにも似た思いを抱きつつ,指先に魂を込めた。次の瞬間,指先がようやく目指すべき場所を探り当てた。――
と,その時の思いを記しています。
わたしはこの部分を読んだとき,涙がとめどもなく出てきて,止まりませんでした。
―― 天野医師は何千人という患者さんに常に全力で,真剣勝負を挑んできた。その積み重ねがあって,今の天野医師がある。全力をぶつけてやってきたことは,きっと患者さんに届いている。もちろん日頃自分を支えてくれている身近な人も,自分の力を,そして自分の努力や頑張りを知っていて,応援してくれている。だから,自分のピンチの時,患者さんや周囲の人を思い浮かべ,力をくれ!と念じることで,自分の力を何倍にもして呼び戻せるのだ。―― ということであろうと思います。
我々の仕事だけでなく,生徒の学習も同じではないでしょうか。
―― 生徒たちが,毎日,授業に真剣に臨み,その毎日の積み重ねが実力という形で現れる。その生徒を支えているのは家族,そして,クラス担任や担当教員である。もちろん入試を受けるのは生徒本人であるが,生徒がいざ試験本番に臨むときに,その力を何倍にもできるのは,生徒自身の努力と支えてきたご家族や担当教員の「熱い思い」ではないか。――
とわたしは考えるのです。教育は「親と子と先生」の三位一体で行うという根拠が,ここにあるのです。