もうすぐ創立70周年を迎えようとしている愛光学園の歴史について、創立当初からふり返ってみていく記事を不定期でアップしております。
前回の記事では、宮西校舎時代の新校舎建設についてご紹介しました。
今回は、寮建設・運営についてご紹介します。
宮西校舎時代、学生寮は、まず「愛光寮」が設置され、次いで「聖トマス寮」が建設される。愛光寮は民間委託であり、聖トマス寮はドミニコ会の運営によった。
愛光寮は1956(昭和31)年3月末から寮生を受け入れた。松山市内以外の生徒が増えたための措置である。
寮は伊予市で建設業を営んでいた寺尾氏が建築し、運営には長女の佐代子さんが当たった。
寺尾氏は田中校長と同じカトリック教徒という関係があった。
佐代子さんは松山女子商業学校でカトリックに入信し、同校を卒業後に修道院入りしたが、病を得て伊予市の実家にもどっていたところだった。
寺尾家では愛光学園で寮の建設・運営が必要になっていると聞き、「神の恵みに応えるため」と、愛光の寮運営に力を注ぐ道を選んだ。
建築された寮は、松山市朝美町 (現・愛光町)にあり、敷地面積は約三百坪。二百坪ほどの木造平屋建てで、六畳部屋に二人が生活した。定員は五十人。
寮生活は規則正しい日課だったが、少人数であるだけに、家庭的雰囲気があり、食後の歓談や月一度の反省会、読書会、遠足、クリスマス祝会、(後に)トマス寮とのスポーツ親善試合などを行った。
寮には数人の女性職員が雇用されていて、昼食は寮から温かい弁当が届いた。
また、教員住宅から極めて近距離にあったため、時に田中校長や教師の来訪があり、寮生を慌てさせることもあった。
佐代子さんは、その後結婚したが、夫妻ともども日常生活のすべての面で寮生の世話をひきうけ、深い愛情をもって寮生の成長を見守り続けた。
民間委託の「愛光寮」で始まった学校寮だが、翌57年には聖ドミニコ修道会運営による「聖トマス寮」が完成し、学園に二寮体制が確立された。
自宅から通学可能な松山地域の生徒を主体として発足した学園ではあったが、既に四期生の段階で、県外を含む市外の生徒が漸増し始めたことを示すものであった。
ドミニコ会が寮運営に乗り出したのは、発足直後の学園には直営で寮を運営するだけの資金力が不足していたことによる。
愛光寮の寮母として寮生の世話を続けていた佐代子さんはもともと病弱だった。
寮開設から七年後の1963年12月、体調を崩し病床につく。
翌1964年12月8日、「私は皆から愛されて幸せだった」との言葉を残して召天した。
36歳の若さだった。
残された五十人の寮生たちは、献身的に寮生の面倒をみてくれた 佐代子さんに感謝の気持ちを表そうと考え、小野寮長、白石副寮長(ともに中学三年)を中心に、記念碑建設が計画された。
資金計画は三万円とし、召天一年後の建設を目指して自分たちの小遣いを出し合う一方、先輩たちにも寄金を呼びかけた。
石材業者への交渉は全額集まらないままでスタートさせ、趣旨を説明しながら、規模などを相談したが、計画通りに資金が集まるか危ぶむ業者が多く、容易に引き受け手は見つからなかった。
しかし、何軒かの交渉の後、一人の業者が引き受けてくれた。松山市石手の大谷氏であった。
大谷氏は、恩人に報いたいとする寮生の話を聞いて感動し、「集まっただけの金額でよい。 必ず立派な碑を作ってあげよう」と、金銭抜きの仕事として受けようと心に決めたという。
結局、募金は計画を上回る八万五千円に上ったが、大谷氏は「除幕式の費用、記念品、その他雑費を差し引いた金額だけでかまわない」と申し出てくれた。
完成した御影石の記念碑は高さ1メートルほどで、正面に「寮母さんの碑 寺尾佐代子さんに捧ぐ 一粒の麦落ちたり」という碑文が刻まれた。
裏面には「寮母サン アナタノ愛ハ 一九五六年二愛光寮ヲ生ミ育テマシタガ 早クモ一九六四年ニハ アナタノ生命ヲチヂメマシタ シカシソノ愛ハ ワレラノ心ノ中ニ 感謝ト共ニ 長ク生キ続ケルニチガイアリマセン 一九六五年十二月八日 愛光寮生一同」と、感謝の言葉を記した。
報恩碑建立の計画については、寮生がすべてを取り決め、業者への交渉が終わってから田中校長に報告された。
裏面の感謝の言葉も寮生が自分たちで考えたもので、正面の「一粒の麦 落ちたり」の言葉は田中校長が「ぜひ入れたい」と希望したものである。
碑は愛光寮玄関に建立され、1965年12月18日に除幕式が行われた。
その後、碑は、愛光寮が宮前川拡張工事に伴い1975年3月に閉寮したのちは寺尾家所有地に移設されていたが、2011年に寮生OBが中心となって、現在の愛光学園内トマス寮とドミニコ寮の間の植え込みに移設した。
佐代子さんの碑は、今も学園の寮生たちの成長を見守るかのように、寮の入り口近くに静かにたたずんでいる。
移設・除幕式の様子については過去の「チュータのひとりごと」記事へ
https://www.aiko.ed.jp/contents/voice/?p=875
「愛光学園50年史」 愛光学園 発行(2002)